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青森県立郷土館ニュース

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パレオパラドキシア-深浦に謎多き化石動物

津軽の遺産 北のミュージアム 第17回
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産出したパレオパラドキシアの左寛骨



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化石が含まれていた深浦町塩見崎の田野沢層


化石の発見
 平成18年(2006)4月、深浦町塩見崎付近の海岸で、青森県では初めて、パレオパラドキシアの化石が発見された。発見されたのは左の寛骨(かんこつ)で、背骨と大腿骨を繋ぐ骨盤にあたる部分である。日本におけるパレオパラドキシアの化石産地は34か所だが、臼歯(きゅうし)の発見例が多く、寛骨のみの発見は初めてである。
 化石が発見された地層は、田野沢層と呼ばれる。化石は、木の化石「珪化木」や大型のカキ(貝)の化石が含まれた粗い砂の層に埋もれていたと考えられるため、当時は近くに河口がある海辺だったことが推測できる。田野沢層が堆積した年代は、およそ1,600万年前と考えられている。

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パレオパラドキシアと同じ束柱目に属するデスモスチルスの復元模型(秋田県立博物館蔵)

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岩手県宮古市和井内遺跡から発見されたパレオパラドキシアの臼歯化石(複製、岩手県立博物館蔵)


パレオパラドキシとは
 パレオパラドキシアは、ほ乳類の束柱目(そくちゅうもく)に属する。束柱目の最大の特徴は独特の形をした臼歯にあり、のり巻きを数本束ねたような形をしている。このような臼歯をもった現生ほ乳類はいない。血筋的にはゾウや海牛類(ジュゴンやマナティなど)に近く、共通の祖先から進化したと考えられている。
 パレオパラドキシアはどのような姿をしていたのだろうか。モデルとなるような近縁動物が現生していないことから、研究者は発見された全身骨格を、解剖学の知識を用いて復元している。その姿は、カバのような胴体にワニのような横に張り出した太い手足がついているという、は虫類のようなものであった。陸上を歩くときは腹を引きずっていたかもしれないが、海の中では機敏に動けたと考えられている。成獣は体長2~3メートル、体重2~3トンと推定されている。

何を食べていたのか パレオパラドキシアは、鼻の穴が後退しており、目は高い位置にある。これらは、鼻や目を水面上に出して泳ぐ動物が備える特徴である。しかし同時に、ひれ足ではなく太い頑丈な四肢をもつ陸上動物の特徴も備えていた。水・陸両方の動物の特徴を兼ね備えていたパレオパラドキシアは、カバのように水中で休息し、陸上でエサを食べたのだろうか。それともトドやセイウチのように、水中でエサをとって陸上で休んだのだろうか。
 頭骨の構造から、パレオパラドキシアは頭を上下左右によく振っていたと考えられた。また、下顎(したあご)の切歯が6本、密に並んで前方に伸びていることから、これがシャベルのような働きをし、エサを掘り起こしていたと考えられる。
 体形からみて、おそらく1日の大半は水中で過ごし、海草を食べていたのではないかと思われる。しかし、決め手となる証拠は、今のところまだない。

時代と分布と環境
 パレオパラドキシアは、これまでに発見された化石により1,400万年前から2、300万年前に、日本列島中北部から北アメリカにかけての北太平洋沿岸域に生息していたことが分かっている。化石の発見数から、かなり繁栄した動物ということができ、特に日本周辺にはたくさん生息していたようだ。
 パレオパラドキシアが生息していたのは、大陸の一部だった日本列島が大陸から離れ始め、日本海が誕生した時期にあたる。特に1,600万年前の北東北の環境は、大小様々な島が浮かぶ多島海であり、南から暖流が入り込んで、熱帯から亜熱帯の気候になっていた。岩手県一戸町のこの時期の地層からは、マングローブ湿地に生息する貝の化石が発見されており、現在の沖縄のような気候だったと考えられている。このような暖かで浅瀬が広がる海に、パレオパラドキシアは繁栄していた。

なぜ絶滅したのか 
パレオパラドキシアの化石は、日本では、今から1,400万年前より後の地層からは見つからない。束柱目の化石と一緒にサメの歯の化石もよく見つかることから、サメに滅ぼされたという説や、当時繁栄し、より水中生活に適した形態をもつ海牛類との生存競争に敗れたという説がある。
 一方で、1,600万年前の熱帯~亜熱帯の温暖な気候から寒冷化が進み、それに適応できなかったという説もある。このように、パレオパラドキシアはまだまだ謎の多い動物である。今後の新たな発見と研究によって、これらの謎が解き明かされていくはずである。
(青森県立郷土館学芸主査 島口天)

○ひとくちメモ「パレオパラドキシア」これは学名で、「古くて矛盾だらけのもの」という意味がある。和名がつけられていないため、学名で呼んでいる。

※ この記事は陸奥新報社の承認を得て、2007年7月16日付け陸奥新報より転載 したものである。
by aomori-kyodokan | 2008-01-10 09:19 | 北のミュージアム
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