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青森県立郷土館ニュース

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親しまれてきた岩木山

津軽の遺産 北のミュージアム 第12回

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岩木山(岩木高原から望む)


岩木山の生い立ち
 津軽平野の南端部にそびえている「岩木山」は昔から「津軽富士」と呼ばれ、信仰の対象として、山菜の収穫場所として人々に親しまれてきた山である。弘前方面から見ると、山頂は南側から鳥海山、岩木山、巌鬼山の三峰に分かれ、中央の岩木山が1625.2メートルと最高峰である。
 岩木山は火山活動によってできた山で、山ができはじめたのは新生代第四紀更新世(約170万年前~1万年前)中頃と言われている。その後、火山活動を繰り返し今の岩木山の形になった。火山活動は今でも続いており、噴火は文久3年(1863)を最後に起こっていないが、昭和45年(1970)には西側の赤沢付近で火山性異常現象が起こっている。岩木山は今も生きている。

岩木山の植物たち
 岩木山は、標高500メートル以下ではミズナラなどの雑木林が広がり、部分的にススキ草原やリンゴ園などが見られる。さらに標高500メートルを越すあたりからブナ林が発達し、標高が増すごとにチシマザサが増えてくる。1,000メートルを越すあたりからはミヤマハンノキやダケカンバを中心とした高山低木林となる。岩木山では、変化に富んだ植物分布を見ることができる。
 フランス人宣教師で、布教のかたわら植物の調査研究をしていたフォリー神父は、岩木山でサクラソウの一種を採集し、明治19年(1886)に新しい植物として名前を付けたのがミチノクコザクラである。岩木山特産種の植物である。

岩木山の動物たち
 
 岩木山の動物については、古くから多くの研究者によって調査されている。岩木山の脊椎動物の代表はニホンツキノワグマで、畑などに出没している。この他に里山近くには世界最小の肉食類と言われているニホンイイズナや、山頂付近には肉食性のホンドオコジョが棲んでいて、ネズミやモグラ類、鳥類などを補食している。この他に、ホンドタヌキ、ホンドテン、ホンドイタチ、ニホンアナグマ、トウホクノウサギや、樹木間を滑空するニッコウムササビなどが山麓から中腹にかけてのミズナラ林やブナ林で生活している。

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種蒔苗代(爆裂火口にできた沼)


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チビヒサゴコメツキ


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ヨモギハシロケタマフシ


岩木山の昆虫たち
 外国人で、岩木山の昆虫を初めて採集し紹介したのは英国人ルイスである。ルイスは明治13年から14年にかけて日本各地で調査を行い日本の昆虫相を次々と解明した。採集日程が明確に残されており、明治13年8月30日に函館の帰り青森に上陸し、8月31日には弘前に入り、岩木山へ登って9月2日には青森に戻っている。ルイスがこの時に採集した標本で名前が付けられた昆虫にはヒメマルクビゴミムシ、ヨツアナミズギワゴミムシ、ヒメスジミズギワゴミムシなど数多くある。
 この中で岩木山の名前のついたイワキナガチビゴミムシは、東北地方北部の渓流の湿った石の下に生息するゴミムシである。また、山頂で2匹の体長5ミリメートル内外の小形のコメツキムシを採集している。後にチビヒサゴコメツキと名前が付けられた。日本の代表的な高山性のコメツキムシで、岩木山では錫杖清水(しゃくじょうしみず)や種蒔苗代(たねまきなわしろ)などで採集されている。このコメツキムシの記載文のなかに、9月1日に採集されたことが書かれており、この日にルイスは間違いなく山頂まで登ったのである。明治の初めにどのようにして外国人が岩木山に登ったのか大変興味深い。
 岩木山でも、植物の芽、茎、葉などに大小様々なコブ状の膨らみが見られる。このほとんどは昆虫によって作られた「虫瘤(むしこぶ)」、種類によって形が異なる。このコブの中に幼虫が棲んでいる。山麓に見られるヨモギにはハチの一種タマバエ類によるヨモギハシロケタマフシ、ヨモギハエボシフシ、ヨモギメツボフシなどの虫瘤が見られる。
(青森県立郷土館 学芸主幹 山内智)

※ この記事は、陸奥新報の承認を得て、2007年6月4日付け陸奥新報より転載したものである。
by aomori-kyodokan | 2007-12-20 13:27 | 北のミュージアム
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