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青森県立郷土館ニュース

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「北斎の富士」新聞連載 第2回「神奈川沖浪裏」

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 俗に「赤富士」と呼ばれる「凱風快晴(がいふうかいせい)」と並んで世界的に知られた、浮世絵風景版画の最高傑作です。荒れ狂う海原、翻弄(ほんろう)される船、波が砕ける一瞬といった、非常に動きのある場面でありながら、画面構成の基本は底辺の広い三角形の安定した構図です。しかも、前景に富士山と相似の三角波、大きく円を描く波頭の砕ける落ちる先には、小さく描かれた富士、視線の動きが自然と富士に収斂(しゅうれん)していく、なんとも心憎い構成です。

描かれている船は、押送船(おしおくりぶね)と呼ばれる鮮魚運搬船です。江戸時代の船は順風のもと、帆を上げて航海するのが普通ですが、急ぎの航海では艪(ろ)だけで海をこぎ渡ります。艪をこぐことを「艪を押す」といい、「艪を押して航海し、荷物を送る船」ということから、この名がつきました。押送船は江戸近辺の漁村から江戸に向かいますが、最も重要な積み荷は鰹(かつお)です。特に値の張る初鰹の運搬に際しては、危険は覚悟の出港となります。この作品の描かれた時期は春、低気圧が通過した後の澄んだ空気、遠くに雪をまとった富士を望み、季節風の強い吹き出しで波高い神奈川沖を航海する押送船と考えられます。

 北斎は水の表現に優れていました。「千絵の海」や「諸国瀧廻り」シリーズでも、様々な水の表現を試みています。北斎は海岸で刻々と変化する海の表情をあくことなく見つめていたと伝えられます。この作品に描かれた波形は、沖合の大波というより、海岸近くでうねりが持ち上がり、まさに崩れようとする瞬間をとらえたものです。そのイメージを富士の姿と重ね合わせ、ダイナミックかつ繊細に表現したのがこの作品といえるでしょう。

 船は江戸時代の交通に大きな役割を果たしていました。北斎の描く海と河川湖沼、多種多様な船の姿は、身近に多くの船が行き交っている時代を反映しています。
(青森県立郷土館学芸課長:昆 政明)

※現在、青森県立郷土館では東奥日報社と共催で「北斎の富士」を下記のとおり開催しています。これに関連して、紙上に10回にわたって、見どころを紹介する記事を掲載する予定です。ご期待ください。

□期日 10月30日(土)~12月5日(日)
□時間 10月30日・31日は9時~18時(入館は17時30分まで)
      11月1日以降は9時~17時(入館は16時30分まで)
□会場 当館1階特別展示室(大ホール)
■料金 一般・大学 800円(600円) 中学・高校 400円(300円)
      小学生以下は無料 ※(  )は前売りおよび20名以上の団体料金
■問い合せ先 東奥日報社・読者事業局事業部
〒030-0180 青森市第二問屋町3-1-89 電話=017-739-1249 FAX=017-729-2352
by aomori-kyodokan | 2010-11-18 11:36 | 北斎
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