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青森県立郷土館ニュース

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ふるさとの物語 第144回 十二池の内四の池  師の作品 忠実に再現

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 水面から枯れ木が多数突き出ている。そして、池を囲む木々の間を吹き抜ける風が、水面を小さく波立たせているのか。静寂と澄んだ空気を思い起こさせるかのような、不思議な光景である。
 本図「十二池の内四の池」に描かれている十二池(深浦町の十二湖)周辺は、現在も人気の観光スポットとして知られている。ブナ林に囲まれた大小の湖沼群は、季節により様々な景観を楽しむことができ、訪れる人々を魅了している。
 本図は、弘前の日本画家山形岳泉(やまがたがくせん 1852~1923年)が描いたもので、師の平尾魯仙(ひらおろせん 1808~80年)の原図を写したものとされる。魯仙は、江戸末期から明治初期にかけて、故郷津軽の自然景観を後世に伝えようと、さまざまな風景を描いた。それらをもとに多くの画集画冊を残したといわれているが、現在確認できるものは少ない。本図が含まれる「合浦山水観 西浜(がっぽさんすいかん にしはま)」も、魯仙自筆のものは見つかっていない。
 師が晩年に手掛けた仕事の多くに関わった岳泉は、師亡き後、その仕事を忠実に模写し再現することに情熱を傾けた。独自の表現を求め、画道に精進することと対局にある姿勢ともいえるが、彼が残した作品からは確かな技術と師への深い敬慕が感じられる。
(県立郷土館主任学芸主査・太田原慶子)

写真:「合浦山水観 西浜」より「十二池の内四の池」(山形岳泉画、県立郷土館蔵)

# by aomori-kyodokan | 2020-01-23 12:00 | ふるさとの物語

ふるさとの物語 第143回 奥入瀬川源の「子ノ口」  かつては滝の名前にも

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 今年、2020年の干支(えと)にちなんで、「子(ね)」の付く地名、「子ノ口」を取り上げる。
 写真は、1918(大正7)年以降の戦前期に発行されたとみられる秋田顕勝会の「十和田湖 子之口の滝」という絵はがきである。現在、「子ノ口」とは、十和田湖から奥入瀬川が流れ出す場所を指す地名であるが、この絵はがきの「子之口の滝」とは銚子大滝のことである。
 類似した表記は、1908(明治41)年に大町桂月が著した「奥羽一周記(十和田湖)」などにも見られるが、他の資料では、「大滝」「銚子之口の滝」「銚子の滝」「銚子滝」などとも書かれる。また、1807(文化4)年に書かれた菅江真澄の旅行記「十曲湖(とわだのうみ)」には「根の口の滝」という地名が見える。
 奥入瀬川が流れ出す場所の地名は、おおむね「子ノ口」かそれに近い地名であった様子だが、1873(明治6)年に編さんされた地誌「新撰陸奥国誌」では「銚子口」「銚子の口」、松浦武四郎が1850(嘉永3)年に書いた「鹿角日誌」では「銚子の口」と表記されている。
 このように、かつて「子ノ口」という地名は、奥入瀬川の源を指すものだけではなく、そこから程近い滝の名前にも冠せられた。また、「子ノ口」は、別名である「銚子之口」などに置き換えられることもあったのだろう。
(県立郷土館学芸主幹・佐藤良宣)

写真:戦前に発行された絵はがき「十和田湖 子之口の滝」(県立郷土館蔵) 


# by aomori-kyodokan | 2020-01-16 12:00 | ふるさとの物語

ふるさとの物語 第142回 玉簾の滝  はるか昔にあった湖の証

ふるさとの物語 第142回 玉簾の滝  はるか昔にあった湖の証_b0111910_16043904.jpg
 奥入瀬渓流沿いにはさまざまな滝があり、散策時にその変化を楽しむことができる。多くの滝は、八甲田の火砕流が冷え固まった溶結凝灰岩からなる岩壁を勢いよく流れ落ちているが、子ノ口寄りにある「玉簾(たまだれ)の滝」は異なっている。
 薄い砂と泥の層が交互に重なっている地層の上を静かに流れ落ちているのである。道路沿いにあるが、落差は大きくなく、気づかずに通り過ぎてしまいそうになる。
 このような地層の特徴は、湖の底でできた地層によくみられる。これは子ノ口層と呼ばれ、十和田湖ができるよりはるか昔に湖があったことの証である。子ノ口層に八甲田の火砕流が挟まれており、火砕流の年代がおよそ76万年前であることがわかっているため、その頃に湖が存在したことになる。
 玉簾の滝の水の流れは、薄い地層間にできた小さな段差と、中に含まれる礫(れき)などによって幾筋もの細い流れに分かれ、趣がある。奥入瀬渓流を訪れた際には、見落とさないようにして立ち寄ってほしい。
(県立郷土館学芸課副課長・島口天)

写真:奥入瀬渓流の子ノ口寄りにある「玉簾の滝」


# by aomori-kyodokan | 2020-01-09 12:00 | ふるさとの物語