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青森県立郷土館ニュース

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カテゴリ:北斎( 10 )

「北斎の富士」新聞連載 第10回「富士を描いた場所」(完結)

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 葛飾北斎は、「富嶽三十六景」で、さまざまな場所から富士をとらえ、その近景にはその土地ならではの風景を描いています。県立郷土館で開催中の「北斎の富士」では、「『冨嶽三十六景』北斎はどこから富士を描いたか」という解説パネルも展示しています。

 この図を、現在の都道府県別でみると、全46点中、東京都内からが最多で18点・約4割でした。江戸時代富士山は、意外にも江戸の山だったのです。次に多いのは10点の静岡県、7点の神奈川県、5点の山梨県、2点の千葉・愛知両県、1点の茨城・長野両県と続きます。

 現代の東京でも、ビルの谷間に富士山が見え、はっとすることがあります。東京からは、他に比肩しうる高さの山が見えず、ひと目でそれと分かる美しい形をしているからです。江戸時代は、ほとんどの建物が平屋か二階屋でしたから、どこからでも見られたはずです。各地に特定の山が結びついたように、江戸の人にとって、遠くにいつも美しい富士山がありました。あたかも桃源郷を求めるような気持ちで向き合ったのではないでしょうか。

 「冨嶽三十六景」出版の30年ほど前、十返舎一九の『東海道中膝栗毛』が刊行。本作とほぼ同時期には、歌川広重の「東海道五拾三次」も刊行されました。このころ、庶民でも旅行が可能になり、富士講・大山講が流行しました。特に大山(おおやま・標高1252メートル・神奈川県)は、より手近にある三角形の美しい山です。別名雨降山(あふりやま)とも呼ばれました。山頂に雲がかかると雨が降るともいわれ、五穀豊穣・雨乞いの神として信仰されました。富士講の代替的要素もあり、鎌倉・江ノ島観光と組み合わせて、大流行しました。その様子は、「冨嶽三十六景」の「相州仲原」「相州七里ヶ浜」「相州江ノ嶌」に描かれています。大山道は、現在の国道246号(青山通り、通称大山街道)をはじめ、各地から大山にいたる道のことで、多数ありました。

 旅がしたくても叶わない人は、本作を眺めて、気分だけ味わったのかもしれません。当時錦絵一枚十六文で、かけそばと同じでした。現代でいうと五百円前後でしょう。富士を目指して旅すれば、各地の名所ではこんな景色が見られるのかと、想像をふくらませたことでしょう。また、江戸みやげで買い求めた人もいたようです。こうした理由で東京都の次に、静岡・神奈川・山梨各県からの景色が多くなったと考えられます。

 各地から見える、春夏秋冬、様々な場面での富士山の美しさは、当時の人々に旅情をかき立てたことでしょう。
(青森県立郷土館・安田道)

※現在、青森県立郷土館では東奥日報社と共催で「北斎の富士」を下記のとおり開催しています。これに関連して、紙上に10回にわたって、見どころを紹介する記事を掲載する予定です。ご期待ください。

□期日 10月30日(土)~12月5日(日)
□時間 10月30日・31日は9時~18時(入館は17時30分まで)
      11月1日以降は9時~17時(入館は16時30分まで)
□会場 当館1階特別展示室(大ホール)
■料金 一般・大学 800円(600円) 中学・高校 400円(300円)
      小学生以下は無料 ※(  )は前売りおよび20名以上の団体料金
■問い合せ先 東奥日報社・読者事業局事業部
〒030-0180 青森市第二問屋町3-1-89 電話=017-739-1249 FAX=017-729-2352
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by aomori-kyodokan | 2010-11-26 08:49 | 北斎 | Comments(0)

「北斎の富士」新聞連載 第9回「東海道吉田」

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 葛飾北斎の「冨嶽三十六景」は、富士山を描いた錦絵の傑作です。題名の三十六景に十景(通称・裏富士)を加えた、計四十六枚で構成されています。富士山を主題にしているので、色々な表情を見せる富士山や、富士山を見る人々の生き生きとした表情、そして当時の風俗や自然に目が奪われるのは当然のことでしょう。実際、来館したお客様も、一枚ずつじっくりご覧になっています。

 しかしこの「冨嶽三十六景」には、隠れた楽しみ方もあるのです。それは、「三十六景」の版元・永寿堂のマーク(傘に三つ巴)や、「永」・「寿(壽)」の字を探すというものです。例えば「23東海道吉田」では、富士山がよく見える茶屋に立ち寄った旅人の笠に、マークや「永」の字が描かれています。また、「37本所立川」では、材木に「新板三拾六景不二仕入」という文字が書かれているのです。このように版元は、絵の中にマークや文字を入れて宣伝し、版権が移ると消されました。

 一方「富嶽百景」では、一見しただけではなかなか富士山を見つけられない作品があります。「百景」ではぜひ富士山を探してみてください。本展は、所蔵者の厚意で3冊の冊子本をばらし、全102点を額装して展示しています。「百景」の全作品が一度に見られるまたとない機会と思います。

 「百景」は、色刷りではないものの、奔放な発想・構図と繊細な彫りで、「三十六景」以上に北斎の洒落っ気が味わえると思います。会場では作品保護のために照明が少し落とされていますが、全作品を一枚ずつ額装にしてあるため、じっくり作品をご覧いただけます。本物に接し、「三十六景」の版元の宣伝や、「百景」の富士山を探してみてはいかがでしょう。

 会場内で探せなかったという方には、今回の展示のために出版された図録「北斎の富士」をおすすめします。他に人気の高い絵はがきや画集など様々なグッズも、物品販売コーナーで取り扱っていますので、作品観賞後も楽しめると思います。
(青森県立郷土館解説員・坂本理恵)

※現在、青森県立郷土館では東奥日報社と共催で「北斎の富士」を下記のとおり開催しています。これに関連して、紙上に10回にわたって、見どころを紹介する記事を掲載する予定です。ご期待ください。

□期日 10月30日(土)~12月5日(日)
□時間 10月30日・31日は9時~18時(入館は17時30分まで)
      11月1日以降は9時~17時(入館は16時30分まで)
□会場 当館1階特別展示室(大ホール)
■料金 一般・大学 800円(600円) 中学・高校 400円(300円)
      小学生以下は無料 ※(  )は前売りおよび20名以上の団体料金
■問い合せ先 東奥日報社・読者事業局事業部
〒030-0180 青森市第二問屋町3-1-89 電話=017-739-1249 FAX=017-729-2352
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by aomori-kyodokan | 2010-11-25 10:08 | 北斎 | Comments(0)

「北斎の富士」新聞連載 第8回「宝永山出現」

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 押しつぶされた家、逃げ惑う人々、材木の下敷きになった馬、桶や甕などとともに人までも宙に舞っていています。富士山が宝永4年11月23日(1707年12月16日)午前10時頃、駿河国(静岡県)印野村付近から噴火した、「宝永大噴火」の惨事を描いています。

 宝永大噴火の特徴は、雲仙普賢岳の噴火のような溶岩の流出ではなく、多量の軽石や火山灰を噴出するプリニー式噴火で、100㎞離れた江戸まで火山灰が降下しました。

 史料などによる噴火の推移は、最初の噴火で白色の軽石が噴出し、いったん収束した後再開し、火柱があがり火山弾や黒色スコリアが噴出しました(宮地 他2007)。噴火は断続的に17日間続き、江戸では噴火初日の午後から噴煙に覆われ細かい灰色の火山灰が降下しました。噴火前の宝永地震と合わせて死者2万人とされていますが、泥流、洪水などの被害も合わせるともっと多かったと思われます。風向きにより火口東側での被害が大きく13㎞以内では厚さ約3m前後噴出物が積もり、火口から約10km東の須走村では集落の約半分が噴出物により焼失し、残りの家屋も倒壊しました。また酒匂川の周辺地域では、その後40年間にわたって火山灰が引き起こす洪水に苦しめられました。

 宝永火口から約10㎞東に位置する静岡県御殿場市滝ヶ原(自衛隊駐屯地の北側)長坂遺跡から宝永噴火の噴出物に埋もれた農家が発掘されています(御殿場市文化財審議会,1963年)。出土状況から住居の内部には軽石は無く、炭の層を挟んで噴出物が積もっていました。軽石は住居跡の外周付近で特に厚く、家から離れると薄くなり一定の厚さになることから、最初に軽石が降下したときは屋根が残っていて、屋根から落ちた軽石が外周に積もったものと考えられます。その後降下した噴出物により屋根が燃え落ち、内部まで噴出物で埋め尽くされ、厚さは2.5mに達しました。このような調査事例は当時の様子を検証するとともに、現在のハザードマップにも生かされています。
(青森県立郷土館学芸主査:伊藤由美子)

※現在、青森県立郷土館では東奥日報社と共催で「北斎の富士」を下記のとおり開催しています。これに関連して、紙上に10回にわたって、見どころを紹介する記事を掲載する予定です。ご期待ください。

□期日 10月30日(土)~12月5日(日)
□時間 10月30日・31日は9時~18時(入館は17時30分まで)
      11月1日以降は9時~17時(入館は16時30分まで)
□会場 当館1階特別展示室(大ホール)
■料金 一般・大学 800円(600円) 中学・高校 400円(300円)
      小学生以下は無料 ※(  )は前売りおよび20名以上の団体料金
■問い合せ先 東奥日報社・読者事業局事業部
〒030-0180 青森市第二問屋町3-1-89 電話=017-739-1249 FAX=017-729-2352
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by aomori-kyodokan | 2010-11-24 14:08 | 北斎 | Comments(0)

「北斎の富士」新聞連載 第7回「雪の且の不二」

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 浮世絵の風景版画は芸術的に鑑賞するほかに民俗資料としても見ることができると私は思っています。今回の「北斎の富士」に展示紹介されている「富嶽三十六景」や「富嶽百景」をみると人物や道具、家屋などが詳細に描かれており、実に興味深いものがあります。

 写真の絵は「富嶽百景」にある「雪の且の不二」(ゆきのあしたのふじ)で、雪の降った朝の様子を描いたものです。且は旦(あした)の誤りであろうといわれます。この絵には一見したところ富士山はどこにも描かれていません。実は二匹の犬が遊んでいる雪山を富士山に見立てているのです。こうした洒落た趣向はいかにも北斎らしいところかもしれません。

 さて、この絵に描かれている人物に注目してみましょう。左の人物はたすき掛けをして懸命に雪を片付けているところですが、手にしている雪かきの道具は青森県内でつい近年まで使用されていました。これを津軽地方ではケンシキといいました。

 また、右の二人の人物を見てみると、一人は笠をかぶり簑を着ています。簑は通常、雨具として用いられますが冬季には防寒具としても着用していたのです。もう一方の人物は布の頭巾をかぶりコート状の上っぱりを着て、手には傘を持ち足には高い足駄を履いています。簑の人物は沓状の履物を履いていますが、この履物は何か私には判然としません。この二人の人物で当時の冬季における代表的な服装を表現しているように思います。

 真ん中の小柄な人物はおそらく丁稚をしている小僧だとおもわれますが、大きな大人用の笠をかぶっています。桶や徳利に入った酒を配達にいくところでしょうか。このように浮世絵を芸術としての視点ばかりでなく、さまざまな視点で鑑賞できるのもこの展示会の楽しみのひとつです。
(青森県立郷土館学芸員:成田 敏)

※現在、青森県立郷土館では東奥日報社と共催で「北斎の富士」を下記のとおり開催しています。これに関連して、紙上に10回にわたって、見どころを紹介する記事を掲載する予定です。ご期待ください。

□期日 10月30日(土)~12月5日(日)
□時間 10月30日・31日は9時~18時(入館は17時30分まで)
      11月1日以降は9時~17時(入館は16時30分まで)
□会場 当館1階特別展示室(大ホール)
■料金 一般・大学 800円(600円) 中学・高校 400円(300円)
      小学生以下は無料 ※(  )は前売りおよび20名以上の団体料金
■問い合せ先 東奥日報社・読者事業局事業部
〒030-0180 青森市第二問屋町3-1-89 電話=017-739-1249 FAX=017-729-2352
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by aomori-kyodokan | 2010-11-24 13:18 | 北斎 | Comments(0)

「北斎の富士」新聞連載 第6回「鳥越の不二」

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 貞享元年(1684)、従来の「宣明暦(せんみようれき)」に変わる「貞享暦(じようきようれき)」が出ると、江戸幕府は天文方(てんもんがた)を新設し(寺社奉行支配)、「貞享暦」の制作者である渋川(しぶかわ)春海(はるみ)をこの役職に就けました。こうして編暦作業は、朝廷の陰陽寮(おんみようりよう)から天文方に移りました。

 翌年、渋川は牛込藁町に「司天台(してんだい)」を設置しましたが、天文方そのものは、本所・神田駿河台・神田佐久間町・牛込袋町を転々とします。天明二年(1782)、浅草鳥越(とりごえ)に「頒暦所(はんれきじよ)」が置かれてようやく落ち着くわけですが、この時、高さ九メートルに及ぶ観測施設が併設されたことから、天文台・浅草天文台と呼ばれるようになったのです。関係者には、天文方筆頭として「寛政暦」の編集を主導した高橋(たかはし)至時(よしとき)や、シーボルト事件に関わって文政12年(1829)に獄死した高橋景保(かげやす)がいます。
 北斎が浅草明王院(みようおういん)地内の五郎兵衛店に転居したのは、天保元年(1830)のことです。 編暦・天文・測量・地誌・洋書翻訳を職務とする天文方は、当時の学問の最先端を行く場所でした。多くの人が出入りし、多くの珍しい道具を備えていました。

 敷地内の築山には四十三段の石段があり、頂上部には約五・五メートル四方の天文台が築かれていましたから、近所からも、よく目についたことでしょう。「鳥越の不二」に描かれたこの球体は「簡天儀(かんてんぎ)」といい、天体の角度などを測定する「渾天儀(こんてんぎ)」から黄道環(こうどうかん)を取り去って、簡略化したものです。手前の屋根の下には、天体の高度を測定する「象限儀(しようげんぎ)」が据えられています。

 2007年、荻原哲夫氏は、東京都公文書館が所蔵する公文書綴『順立帳』の中に天文台の絵図があると報告し、注目を集めました(「浅草天文台の詳細図を発見!」、『伊能忠敬研究』第四八号)。絵図の制作時期は弘化三年(1846)~万延年間ということですので、「富嶽百景」初編が刊行された天保五年からは、さほど離れていません。   
(青森県立郷土館研究主幹 本田伸)

※現在、青森県立郷土館では東奥日報社と共催で「北斎の富士」を下記のとおり開催しています。これに関連して、紙上に10回にわたって、見どころを紹介する記事を掲載する予定です。ご期待ください。

□期日 10月30日(土)~12月5日(日)
□時間 10月30日・31日は9時~18時(入館は17時30分まで)
      11月1日以降は9時~17時(入館は16時30分まで)
□会場 当館1階特別展示室(大ホール)
■料金 一般・大学 800円(600円) 中学・高校 400円(300円)
      小学生以下は無料 ※(  )は前売りおよび20名以上の団体料金
■問い合せ先 東奥日報社・読者事業局事業部
〒030-0180 青森市第二問屋町3-1-89 電話=017-739-1249 FAX=017-729-2352
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by aomori-kyodokan | 2010-11-24 10:11 | 北斎 | Comments(2)

「北斎の富士」新聞連載 第5回「さい穴の不二」

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 この絵の中でまず目に付くのは、障子に逆さまに映った富士山とそれを見て驚く二人の人物でしょう。なぜ、障子に富士山が逆さまに映っているのでしょうか。

 実は、その答えの鍵を握っているのは箒を持っている人物で、この人物が指差している先には、雨戸に開いた小さな穴があります。絵のタイトルにある「さい穴」は「節穴」という意味で、この小さな穴のことを指しています。雨戸の外には雄大な富士山がそびえており、富士山に当たって散乱した光の一部がこの小さな穴を通り抜け、障子に上下・左右が反転した像を映し出したのです。

 このような現象は古代から知られていたようで、中世のヨーロッパでは画家が風景画のスケッチをするためや科学者が太陽などを観測するために、これを利用していたという話もあります。ただ、小さな穴を通って入ってくる光は非常に弱いため部屋を暗くする必要があり、この絵では暗い家の中として表現されていませんが、本当は雨戸を閉め切った真っ暗な状態でようやく障子に映っている富士山が確認できたと思われます。

 もう一つ、障子に映った富士山について気になることがあります。それは、像が二重に映っているということです。実験してみたところ、穴が二つ開いていれば像が二重に映ることが確認できました。箒を持った人物の指先には、穴は一つしか無いように見えますが、実際には縦に並んだ二つの穴があったのかもしれません。

 また、穴が一つしか無いとした場合の別の考え方として、富士山とその側火山である宝永山が映っていることが考えられます。宝永山は富士山の南東麓にありますので、この家が富士山の南東側にあれば富士山の手前に宝永山が見え、この絵のような山の配置になると思われます。
(青森県立郷土館主任学芸主査・島口 天)

※現在、青森県立郷土館では東奥日報社と共催で「北斎の富士」を下記のとおり開催しています。これに関連して、紙上に10回にわたって、見どころを紹介する記事を掲載する予定です。ご期待ください。

□期日 10月30日(土)~12月5日(日)
□時間 10月30日・31日は9時~18時(入館は17時30分まで)
      11月1日以降は9時~17時(入館は16時30分まで)
□会場 当館1階特別展示室(大ホール)
■料金 一般・大学 800円(600円) 中学・高校 400円(300円)
      小学生以下は無料 ※(  )は前売りおよび20名以上の団体料金
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by aomori-kyodokan | 2010-11-22 10:07 | 北斎 | Comments(0)

「北斎の富士」新聞連載 第4回「諸人登山」

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 古代には富士の山自体がご神体であり、人々は登らずに遠くから拝む信仰がありました。やがて山麓の中部地方や関東地方に、富士山を拝む浅間(せんげん)神社が建立され、御師(おし)たちが各地に布教を始めました。

 江戸時代になると信仰は庶民にも広がり、富士講が結成され、旧暦7月22日から8月22日まで富士山登拝が行われるようになりました。北斎が生きた18世紀半ばから19世紀半ばは、江戸市中で富士講が爆発的に流行して、八百八講が生まれたといい、講結成の禁令が出された時代でした。

 富士講の人気のひとつに、六十年に一度、女性が途中まで登山するのを認めていたことがあります。彼は「木花開耶姫命」(「富嶽百景 初編」図1)「孝霊五年不二峰出現」(同図2)「役ノ優婆塞富嶽草創」(同図3)で、富士山の神々や伝説を描いていますが、特に「諸人登山」(「富嶽三十六景」図46)「不二の山明キ」(「富嶽百景 初編」図5)「辷り」(同図6)「不二の室」(同二編図46)などでは、白装束に金剛杖を持ち不二(富士)講の笠をかぶった参詣者たちの姿と、近世から整備が進んでいた参詣道と、道中各所に設置された室(山小屋)の様子、下りの躍動感など、当時の民衆による登拝習俗を生き生きと描いており興味深いです。

 このような白衣で六根清浄を唱える登拝や、老若男女が本山登拝の代わりに登った富士塚の建立などは、本県の岩木山「お山参詣」で、近代以降に流行した白装束と模擬岩木山習俗と似ているといえます。
(県立郷土館学芸主査 小山隆秀)

※現在、青森県立郷土館では東奥日報社と共催で「北斎の富士」を下記のとおり開催しています。これに関連して、紙上に10回にわたって、見どころを紹介する記事を掲載する予定です。ご期待ください。

□期日 10月30日(土)~12月5日(日)
□時間 10月30日・31日は9時~18時(入館は17時30分まで)
      11月1日以降は9時~17時(入館は16時30分まで)
□会場 当館1階特別展示室(大ホール)
■料金 一般・大学 800円(600円) 中学・高校 400円(300円)
      小学生以下は無料 ※(  )は前売りおよび20名以上の団体料金
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by aomori-kyodokan | 2010-11-22 10:01 | 北斎 | Comments(0)

「北斎の富士」新聞連載 第3回「甲州石班澤 (こうしゅうかじかざわ)」

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↑変わり摺り
 県立郷土館で開催中の「北斎の富士」では、葛飾北斎の代表作「冨嶽三十六景」全46点のすべてを展示しています。しかも今回展示の作品は、初刷(しょず)りに相当する、かなり状態の良い作品がほとんどです。

 多色木版画の錦絵(にしきえ)は、その大半が経年変化によって退色が進み、摺られた当時の色合いが失われています。また本作のような人気作は、長年にわたって数千枚摺られたといわれ、後摺(あとず)りになるほど版の摩滅が激しく、線が太くなったりかすれたりします。そのため後摺りには、色合いを変えた、変わり摺りが何種類かあるといいます。今回の「三十六景」では、4点展示しています。変わり摺りは、同じ構図でありながら、印象が変化するおもしろさがあります。

 そのうちの1点が「甲州石班澤」です。上の図が初刷りとみられ、藍色一色で描かれています。一色でありながら、濃淡による立体感・遠近感は、下の図と比べ明らかに上です。繊細な色合いは本藍のものであり、細密な彫り・絶妙の構図とあいまって、まさに世界を驚嘆させたジャパン・ブルーの美しさです。北斎は「冨嶽三十六景」で、化学合成した安価なベロ藍(プルシアン・ブルー)も使っていますが、本藍の透明な青色は表現できなかったようです。

 変わり摺りの方は、漁師と子供の着物を赤に、岸辺を緑にしたことで、背景の富士山・富士川から飛び出しているように見えます。

 波の迫力では、有名な「神奈川沖浪裏」におよびませんが、飛び散り泡立つ水の動き。漁師が放った投網と踏ん張る足の緊張感。相似形の岩と波によるリズム感。網と岩の三角が、富士の稜線と呼応する構図の妙。画面下半分の荒々しさと、上半分の富士をとりまく静謐さの対比。などなど、一見地味ですが、名人北斎ならではの作品と唸らされます。

 本展示は、作品保護のため、明るさを押さえています。時間をかけてじっくり鑑賞すれば、目が慣れ、180年前、江戸に住まう人々の一人になれるはずです。
(青森県立郷土館・安田道)

※現在、青森県立郷土館では東奥日報社と共催で「北斎の富士」を下記のとおり開催しています。これに関連して、紙上に10回にわたって、見どころを紹介する記事を掲載する予定です。ご期待ください。

□期日 10月30日(土)~12月5日(日)
□時間 10月30日・31日は9時~18時(入館は17時30分まで)
      11月1日以降は9時~17時(入館は16時30分まで)
□会場 当館1階特別展示室(大ホール)
■料金 一般・大学 800円(600円) 中学・高校 400円(300円)
      小学生以下は無料 ※(  )は前売りおよび20名以上の団体料金
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by aomori-kyodokan | 2010-11-18 16:45 | 北斎 | Comments(0)

「北斎の富士」新聞連載 第2回「神奈川沖浪裏」

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 俗に「赤富士」と呼ばれる「凱風快晴(がいふうかいせい)」と並んで世界的に知られた、浮世絵風景版画の最高傑作です。荒れ狂う海原、翻弄(ほんろう)される船、波が砕ける一瞬といった、非常に動きのある場面でありながら、画面構成の基本は底辺の広い三角形の安定した構図です。しかも、前景に富士山と相似の三角波、大きく円を描く波頭の砕ける落ちる先には、小さく描かれた富士、視線の動きが自然と富士に収斂(しゅうれん)していく、なんとも心憎い構成です。

描かれている船は、押送船(おしおくりぶね)と呼ばれる鮮魚運搬船です。江戸時代の船は順風のもと、帆を上げて航海するのが普通ですが、急ぎの航海では艪(ろ)だけで海をこぎ渡ります。艪をこぐことを「艪を押す」といい、「艪を押して航海し、荷物を送る船」ということから、この名がつきました。押送船は江戸近辺の漁村から江戸に向かいますが、最も重要な積み荷は鰹(かつお)です。特に値の張る初鰹の運搬に際しては、危険は覚悟の出港となります。この作品の描かれた時期は春、低気圧が通過した後の澄んだ空気、遠くに雪をまとった富士を望み、季節風の強い吹き出しで波高い神奈川沖を航海する押送船と考えられます。

 北斎は水の表現に優れていました。「千絵の海」や「諸国瀧廻り」シリーズでも、様々な水の表現を試みています。北斎は海岸で刻々と変化する海の表情をあくことなく見つめていたと伝えられます。この作品に描かれた波形は、沖合の大波というより、海岸近くでうねりが持ち上がり、まさに崩れようとする瞬間をとらえたものです。そのイメージを富士の姿と重ね合わせ、ダイナミックかつ繊細に表現したのがこの作品といえるでしょう。

 船は江戸時代の交通に大きな役割を果たしていました。北斎の描く海と河川湖沼、多種多様な船の姿は、身近に多くの船が行き交っている時代を反映しています。
(青森県立郷土館学芸課長:昆 政明)

※現在、青森県立郷土館では東奥日報社と共催で「北斎の富士」を下記のとおり開催しています。これに関連して、紙上に10回にわたって、見どころを紹介する記事を掲載する予定です。ご期待ください。

□期日 10月30日(土)~12月5日(日)
□時間 10月30日・31日は9時~18時(入館は17時30分まで)
      11月1日以降は9時~17時(入館は16時30分まで)
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■料金 一般・大学 800円(600円) 中学・高校 400円(300円)
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by aomori-kyodokan | 2010-11-18 11:36 | 北斎 | Comments(0)

「北斎の富士」新聞連載 第1回「凱風快晴」

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 現在、50から60代以上の方々なら、某食品会社のお茶漬けのおまけに入っていた名画カードで、葛飾北斎の富獄三十六景の絵柄はおなじみではないでしょうか。そうでなくても、富士山の絵といえば、三十六景の中の逆巻く大波の彼方に小さく見える富士山が描かれた「神奈川沖浪裏」や通称「赤富士」と言われる「凱風快晴」の2点を思い浮かべる人も多いはずです。それくらい、北斎と「富獄三十六景」は、我々日本人にはなじみ深い絵師であり作品なのですが、実はこのシリーズ36景ではなく、46景あるのは、ご存じでしょうか。この三十六景の名所絵が大好評の為に、さらに10点追加したそうです。またこれにより、役者絵とか美人画が主流だった浮世絵に風景画(名所絵)の分野が確立し、北斎という絵師の名も知れわたることになりました。しかも、この時の北斎の年齢は72歳、「富士百景」という絵本を刊行したのが75歳です。現在でも70代ともなれば仕事の一線を退く人も多いのに、本当に驚きです。

 やがて、貿易とともにヨーロッパに渡った「富獄三十六景」は、現地の芸術家たちに高く評価されました。1999年にアメリカの雑誌『ライフ』が企画した「この1000年で最も重要な功績を残した100人」に日本人として一人だけ選ばれているのが北斎で、このことからも彼の世界的な評価の高さを知ることができます。また今年は北斎生誕250年の記念すべき年でもあります。

 あまりに有名な為に、知ったつもりになっている三十六景と百景。しかし、じっくり観ると新たな発見が次々と出てきます。次回からは自然、歴史、民俗、産業の各分野の学芸員が、北斎の作品の新たな魅力をお伝えします。
(県立郷土館・對馬恵美子)

※現在、青森県立郷土館では東奥日報社と共催で「北斎の富士」を下記のとおり開催しています。これに関連して、本日から紙上に10回にわたって、見どころを紹介する記事を掲載する予定です。ご期待ください。

□期日 10月30日(土)~12月5日(日)
□時間 10月30日・31日は9時~18時(入館は17時30分まで)
      11月1日以降は9時~17時(入館は16時30分まで)
□会場 当館1階特別展示室(大ホール)
■料金 一般・大学 800円(600円) 中学・高校 400円(300円)
      小学生以下は無料 ※(  )は前売りおよび20名以上の団体料金
■問い合せ先 東奥日報社・読者事業局事業部
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by aomori-kyodokan | 2010-11-12 10:55 | 北斎 | Comments(0)