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イワキサンクジラ発掘

津軽の遺産 北のミュージアム 第16回

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左:発電機等の機材を運搬中 右:発掘現場の中村川

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削岩機による発掘開始

化石の発見・発掘
 岩木山の南西麓を流れる中村川は、木の化石「珪化木」や動物化石がよく見つかる川である。この中村川で、平成2年(1990)秋、青森県立郷土館によるクジラ化石の発掘が行われた。
 このクジラ化石は、弘前大学の学生が地質調査を行った際に発見したもので、発見時には尾椎(びつい)の一部が河岸の崖に露出していた。その後、県立郷土館と岩手県立博物館の調査によって椎骨が連続して埋もれている可能性が指摘され、頭部の一部も発見されたことから、ほぼ一頭分のクジラ化石が埋もれていると考えられ、本格的に発掘を行うことになった。
 化石の産出ポイントに行くには、嶽温泉から湯段温泉を通って中村川へ向かう林道を車で下り、さらに山道を下流側へ歩いて40分程かかる。山道は狭く、何本か沢を越えなくてはならないが、特に大変なのは産出ポイントまで下る最後の斜面で、標高差30メートル以上の急斜面である。
 発掘には、化石が埋もれている崖の上を崩すための削岩機や、それを動かすための発電機などが必要で、それらを一輪車に乗せて山道を運んだ。途中の沢を越える時は一輪車にロープを繋ぎ、何人もの職員が力を合わせて引き揚げた。
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ハンマーによる手作業での発掘に移行

発掘の現場から
 発掘は1週間に及び、その間、近くに宿をとって現場と往復しながら作業が進められた。化石が埋まっている層の近くまで削岩機で掘り下げ、その後はハンマーによる手作業となった。椎骨は予想通り連続して産出し、その周囲から肋骨(ろっこつ)や肩甲骨、上腕骨、尺骨(しゃっこつ)、橈骨(とうこつ)、指骨、下顎骨(かがくこつ)などが次々に産出した。最終的には頭部や尾部の一部を欠くものの、ほぼ一頭分のクジラ化石が得られた。産出した化石は番号を付けて記録をとり、岩木高校の生徒達の力を借りて林道まで運んだ。
 県立郷土館に運ばれた化石は、まず、表面についた泥を落とさなければならなかった。化石が発掘された地層はまだ硬い岩石になっていない状態の泥だったため、小さなハンマーとタガネで少しずつ砕きながら落とすことができた。また、化石の方は暗茶褐色の石に変化していて硬く、泥とは硬さの違いがはっきりしていた。このため作業は困難ではなかったが、連続2時間程で手がしびれてくる上、仕事の都合上、毎日作業をすることができなかった。結果的に作業が終了するまで、十年以上の時間を要した。
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イワキサンクジラの産出状況

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イワキサンクジラの鼓室胞

クジラ化石の研究
 イワキサンクジラが泳いでいた頃の青森県は、どんな環境だったのだろうか。それを知る手がかりは、化石を含んでいた地層にある。
 この地層は「赤石層」と呼ばれ、化石を含んでいた部分は600万~700万年前に堆積したと考えられている。化石を含んでいたのは泥であるが、赤石層は泥と細かい砂や火山灰が重なり合う互層となっており、水深数百メートル以上の海底で堆積したようだ。この頃の青森県はほとんどが海の底で、もちろん岩木山もまだなかった。
 そんな大海原を悠々と泳いでいたと思われるイワキサンクジラは、理由はわからないが、ある時死んでしまい、深い海底に沈んだ。化石が地層に埋もれていた状態から、イワキサンクジラは海底に着底後、腐敗が進んで分解されていったと考えられる。椎骨などは、下半部は泥に埋もれたようで保存状態がよく、泥から出ていた上半部は溶けている。
 いったい、イワキサンクジラとは、どのようなクジラだったのか。
 クジラの種類を決めるのに重要な部位として、鼓室胞(こしつほう)がある。これは耳の奥にあるソラマメのような形をした骨で、中が空洞になっており、クジラの種類によって形が違う。イワキサンクジラの場合、運よく左右二つの鼓室胞が残っていた。これと下顎骨、肩甲骨を現生のクジラと比較したところ、ヒゲクジラ類のナガスクジラ科に属する種だとわかった。ただし、この科に属する種の中に対比できるものはなく、イワキサンクジラは絶滅した種と考えられる。
 クジラ化石は、貝化石のように個体数が多くないため、同一種内での変異を知ることは難しい。イワキサンクジラも、複数個体の化石が得られれば、種を決めることができると思われる。
(青森県立郷土館学芸主査 島口天)


○ひとくちメモ
「クジラの種類」
 クジラは、ヒゲクジラとハクジラとに大きく分けることができる。ハクジラは、イルカやシャチ、マッコウクジラのように、歯を持つ仲間である。ヒゲクジラは、歯に代わってクジラヒゲと呼ばれるヒゲが上顎から口内に生えており、地球上最大の動物シロナガスクジラやミンククジラ、ザトウクジラなどがある。

※ この記事は陸奥新報社の承認を得て、2007年7月9日付け陸奥新報から転載したものである。
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by aomori-kyodokan | 2008-01-09 13:45 | 北のミュージアム
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