理想求めて試行錯誤
平尾魯仙「虎図衝立」下絵
2011年、当館に寄贈された成田彦栄コレクションには平尾魯仙関係の絵画を含む作品(資料)が多数含まれ、今回の平尾魯仙の特別展の調査に大変役立ったことは幸運であった。さて、その中に弘前市立博物館所蔵の虎を描いた衝立の下絵が発見された。この絵を見たとき思わず「木炭デッサンか?」といいたくなった。魯仙は明治初期に亡くなっているから、西欧の木炭デッサンの技法も知識も魯仙は知っているはずはない。木炭デッサンは西洋美術において最もアカディミックな学習方法である。イーゼルに画板をたてかけ、鉛筆状の木炭をモデルの石膏像にあわせて縦にしたり横にしたりして形をとっている光景を見たことのある人も多いのではないだろうか。
下絵は虎の脚や尾の部分に幾本もの線が描きこまれている。納得のいく形を模索し、その上で一番良いと思われる線を採用して、毛筆で下絵の虎を完成させている。しかし、である。完成作品である衝立の虎の尻尾は、下絵では、取り入れなかった方であった。
魯仙が最後の最後まで理想の形を求めて試行錯誤を繰り返していることがわかるこの下絵を、完成品である衝立を見比べると、絵に対して妥協を許さない魯仙の制作態度を感じとれると思う。
(前県立郷土館副参事 對馬恵美子)