神秘的な力への信仰
郷土館が所蔵している金属製の陽物
陽物(男根の形を象徴するもの)を神体としたり、神社に奉納したりするならわしは、各地で古くから行われてきた。しかし、「卑猥」で「野蛮」な習俗であるという偏見から、明治のはじめに取締りの対象となったことや、そういった見方が、「啓蒙」という名のもと、次第にひとびとの間に共有されていったこともあって、「みちのおくにはいと多し」(菅江真澄『外ヶ浜つたひ』)と記された頃に比べると、廃れてしまったものも多い。そんな逆境に屈することなく、今もなお本県では100に近い場所で、このような習俗が受け継がれている。
このならわしには、子宝や自然の恵みを求めるもの、住まいや村里の災いを退けるもの、道行きの安全を祈るものなどがあって、さまざな願いが込められている。いずれもその本質には、生殖器の持つ神秘的な「力」に対する信仰がある。奉納される陽物は、木や石など、身近な加工しやすい素材で作られることが多い。なかには写真のような金属製のものもある。よく知られているのは、津軽の「カナマラ大明神」の話(根岸鎮衛『耳袋』)。神体は黒銅製の陽物とされる。平内町の神社では「コンセイサマ」と称して金属製の陽物を祀っている。また、「コヤスサマ」といって上北地方の民家に祀られる鉄製のものもある。テンニャクバサマ(産婆)であった先代が信仰していたものという。
(県立郷土館研究員 増田公寧)