巨人用…ではなく奉納用
巨大な奉納用ワラジ(県立郷土館蔵)
近代に西洋の靴が普及するまで、日本列島の人々の履き物は、ワラや樹皮、木で作り、足を乗せる台の上に鼻緒を付けた構造のものが多かった。そのなかでも長旅や仕事で履くのがワラジ(草鞋)だった。平安時代にはその原型が生まれていたという。青森県立郷土館にも、ふるさとの人々が使ってきた多くのワラジがたくさん収蔵されている。
そのなかでも最大のワラジを紹介しよう。写真の巨大なワラジは、片足分で長さ約2.8メートル、幅約1メートルもある。その重さも大変なもので、片足だけでも大人の男性がやっと担げるくらいだ。いったいどんな巨人が履いたワラジだろうか。
いや、これは実用のものではなく、神仏に奉納したワラジだと考えられる。人々はムラや神聖な空間に災いや魔が侵入するのを防ぐため、賽の神や道祖神、寺の門前を守る仁王像などに大きなワラジを奉納することが多かった。
寛政8年(1796)7月2日に津軽の車力付近を通った旅行家菅江真澄も、大山祇(おおやまつみ)神社の大鳥居に大きなワラジをたくさんかけているのを見て「仁王尊が祀られているのだろうか」と記録している(「外濱奇勝」)同じく本資料も祭祀具と推測され、三沢市にあった旧小川原湖民俗博物館が採集し、近年当館へ寄贈されたものである。
12月19日(土)から来年2月4日(木)まで開催する当館特別展「大中小~くらしのなかのスケールあれこれ~」で展示する予定だ。ぜひご覧いただきたい。
(県立郷土館主任学芸主査 小山隆秀)