仏の功徳(くどく)、庶民に伝える
地獄でのさまざまな責め苦が描かれた地獄絵
当館では、季節に合わせてささやかな展示を行っている。今回はお彼岸が間近なこともあり、エントランスホールと3階民俗展示室の一角に、地獄絵を複製したタペストリーを展示した。題して「地獄絵―郷土館で地獄めぐり―」である。
この地獄絵は、高澤寺(鰺ヶ沢町)所蔵の「十王図(じゅうおうず)」で、江戸末から明治にかけて活躍した弘前の絵師平尾魯仙が地獄を支配する10人の王と、地獄の様相を描いたものである。この世で悪いことをした者が、あの世では地獄に行って舌を抜かれたり、火の中に落とされたりして苦しんでおり、天空には仏が現れその様子を憐(あわ)れんでいる構図となっている。
絵に描かれた仏の功徳を庶民に伝える寺行事は、本県においても正月・盆の16日やお彼岸のころに行われていた。高澤寺では正月16日に現在もこの絵を公開しており、かつては多くの参詣者が拝観したという。子供を連れてきて、この絵を見せながら説教する人もいた。太宰治『思ひ出』の中で、幼少の太宰が「たけ」から善悪を教えられる場面は、このような地獄絵を前にしたものであった。
(県立郷土館学芸課長 古川実)
※この季節展示は2014年秋に実施されました。