便器の背後には巨大な「ヘラ」
手前のじょうごは小便器(弘前近郊で撮影)
とある農家の便所を撮影した珍しい写真です。水洗式でも落下式でもなく 、背後に立てられた巨大なヘラで便を奥の排出口へ水平移動して始末するようです。落下式ですと排便時に汚物の滴が跳ね上がる可能性がありますが、これはその心配がない上に、排便の度に便を移動することにより便所内の臭気も抑えられます。よく工夫された方式だといえます。
農家のなかでも地主などの大きな家では、屋外の便所に2つの扉を持つものもみられました。大便用と小便用ではなく、一方は家の主人用、他方はそれ以外の人々が用いたそうです。また2ヶ所に便所を備え、一方を来客用とするものもありました。
下の写真は2扉式の便所です。手前にある木製のじょうごは小便用。入り口の床には草履が置かれ、右手には尻拭いに使用するものを入れたかと思われる容器が見えます。尻拭いには籌木(ちゅうぎ=ヒバや杉などの木、麻ガラやイタドリの茎などで作ったヘラ)が古くから用いられてきました。他にも葉っぱや稲わら、りんごの袋や新聞紙など、地域や時代によってさまざまなものが用いられました。
大小便は肥料として利用するので、使用済みの尻拭きは便槽に落とさず、別の箱に入れて保管しました。これを燃やしてから便槽に戻す場合もありました(焼肥)。なかには、便所内の壁が郵便受けのようにくりぬかれ、そこから使用済みのものを外へ落として集めるシステムもあったそうです。(県立郷土館・増田公寧、写真はいずれも昭和30年代、佐々木直亮氏撮影)